夜香花
「状況的には良いかもな。お陰で家紋がくっきり浮かんでいる。あとは水気が残らないよう、よく拭いておけ」

 ぽい、と懐剣を投げ出す真砂に、深成は思わず仰け反った。
 剥き出しの刃を受け止める技術はない。

 かちゃん、と落ちた懐剣を拾い、深成は着物の袖で、水気を拭き取っていった。

「そういえば、真砂、刀なくなっちゃったね」

「別に刀ぐらい、そのうちまた手に入る」

 ぶっきらぼうに言い、真砂は苦無の袋を腰につけた。
 片手ということなど、感じさせないほど器用だ。

 だが。
 刀はもう、使えないだろう。

 真砂は言わないが、普通の刀は、長さも重さも結構あるのだ。
 以前深成が真砂の刀を上手く扱えなかったのも、重かったからだ。
 片手で扱える代物ではない。

 片腕を失った時点で、乱破としての命は絶たれたも同然なのだ。

「……真砂。これから、どうすんの」

 もう一度、深成は真砂に聞いた。
 あれほど優れた乱破だった真砂が、一瞬で転落してしまった。
 その原因となった自分は、一体どうすればいいのか。

 あれだけ他人とつるむな、と言っていた真砂に付きまとった結果がこれだ。
 今まで以上に、人は遠ざけるだろう。
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