夜香花
 もちろんそれは、深成とて例外ではない。
 真っ先に追い払われるべき存在だ。
 そう思うと、じわり、と深成の目に涙が浮かぶ。

「真砂が片腕になったのは、わらわのせいだけど……。わらわ、ここにいたい」

 小さく言う。
 真砂は少しだけ顔をしかめた。

「勘違いするな。腕を失ったのは、お前のせいじゃない。単なる……不注意だ」

 少し言いよどんだ真砂に、深成は俯いたまま、小さく首を振った。
 あのとき襲いかかってきた男は、少なくともあの瞬間は深成に集中していたのだから、深成を捨てれば良かったのだ。
 そうすれば、深成は死んだだろうが、真砂は何ら怪我することなく逃げられたはずだ。

 苦無を放つでもなく、わざわざ相手の動きを止めたのは、刃の下に、咄嗟には動けない状態の深成がいたからだ。

 苦無では、即死させるのは難しい。
 あの男の勢いでは、どこかに苦無が刺さっても、懐剣を振り下ろすぐらいは出来ただろう。
 深成が危なかったのだ。

 紛れもなく、真砂は深成を守るために、腕を犠牲にしたのだ。

「……まぁ、お前は好きにするといい」

 ふい、と顔を背けて、真砂が言う。
 深成は、ちらりと真砂を見た。

 好きにしろ、ということは、傍にいてもいい、ということだろうか。
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