夜香花
 意外そうな顔の真砂に、清五郎は、幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。
 そして、相変わらず眉間に皺を寄せる真砂の前に膝を付く。

「とにかく頭領。無事で良かった」

 少し目を見開き、真砂は顔を背けた。

「……俺は頭領じゃない。もうそんな資格もない」

 ぎゅ、と右手で左腕を押さえ、小さく言う。
 清五郎は、ふ、と笑みを浮かべると、立ち上がった。

「それはどうかな。とりあえず、皆のところへ合流しようぜ」

 そう言って、ふと深成を見た。

「おや、お前もいたのか。そうだな、さすがに真砂も、一人ではそこまでちゃんと手当ては出来んかな」

 いかにもついで、といった風に、声をかける。
 深成は、そろ、と真砂の後ろに移動した。
 真砂のこの傷が自分のせいだと知れたら、どうなることやら。

「皆、竜神のほうへ向かうことにした。すでに移動してる」

「そうか」

「行こうぜ。皆心配してる」

「……」

 真砂は蔦葛を掴むと、地を蹴った。
 登ることは出来なくても、降りるのであれば片手でも不都合はない。
 あっという間に真砂は地面に降り立った。

 その横に、すぐに深成が飛び降りてくる。
 清五郎も、特に深成に突っ込むこともなく、三人は走り出した。
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