夜香花
「あっ頭領っ!」

「頭領!! ご無事だったんですね!」

 里の者と合流するなり、皆が嬉しそうに叫ぶ。
 その表情に、真砂は妙な顔をした。

 落ち合う場所に現れない者など、死んだと思っていいものだ。
 その時点で切り捨てられる。

 それが当たり前だった。
 自分もそう思ってきたし、故に自分が切り捨てられても構わなかった。

 それなのに、何故皆いかにも嬉しそうに、真砂の帰還を喜ぶのだろう。

「……水を差すようで悪いが、俺はこれ、この通り。乱破としての命は絶たれた」

 布の巻かれた左腕を翳して言うと、皆押し黙った。
 だが。

「腕をなくされても、頭領は頭領です」

「それぐらいで、我らの頭領が他の者より劣るとも思いません」

 意外な意見に驚いていると、中の長老が、皆を代表するように立ち上がった。

「戦働きだけが、乱破ではありませぬ。何をするにも事前の諜報活動は欠かせませぬ。片腕になったとて、頭領なら大方の依頼はこなせましょう。我らは影の存在。派手な戦は致しませぬ」

「……」

「何を今更って感じだぜ。今までだって、真砂は皆を率いて逐一指示してきたわけではない。情報共有・諜報活動だけでも、十分だったんだ。今までどおりでいい。ま、真砂が不便を感じるなら、片腕の代わりになる奴を付けるのもいいと思うが。その娘っ子のようにな」

 ぽん、と真砂の肩を叩き、清五郎が意味ありげに言う。
 皆の前では『真砂』とは呼ばない清五郎だが、今はあえて名前を呼ぶ。
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