夜香花
「皆が認めた頭領だぜ。腕の一本ぐらいが何だ。そんなことで、真砂の力が落ちるとも思わない。もちろん出来ないことも出てくるだろうが、ほれ、この機会に、もうちょっと俺たちを頼ればいい」

 笑って言う清五郎に、控えていた里の者全員が、期待を込めた視線で真砂を見る。

「そうですよ! 俺たちだって大分、頭領の考え通りに動けるようになりました」

「お世話が必要なら、飛んできますとも!」

 眉間に皺を刻んだまま、真砂は皆を見渡した。
 皆の視線が、不思議な温かみを持って真砂を包む。

 それを振り払うように、真砂は、ふいっと顔を背けた。

「……勝手にしろ」

 ぼそ、と言い、人の輪から外れたところで、どっかと座る。
 いつもの調子に、皆は笑い合い、各自おのおの動き出した。

 夜に備えて焚き火のための木々を集める者、食材を捕りに行く者。

 そんな中で、深成はしばらく真砂の隣で、様子を窺った。
 どうやら今夜は、ここが野営地のようだ。

 この先どこへ行くのかはわからないが、もう少し移動するのだろう。
 拓けた土地で一時休息、といったところだ。

「真砂。ご飯になるもの採ってくるね」

 木にもたれている真砂に声をかけ、深成は立ち上がった。

 きょろきょろしながら歩いていると、いきなり肩を掴まれた。
 驚いて振り向くと、清五郎が立っている。

 清五郎は、軽く顎で先を指した。
 ついてこいという意味のようだ。

 どうしたもんか、と思ったが、特に逆らう理由もない。
 深成は清五郎の後についていった。
< 441 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop