夜香花
「わらわはさぁ……」

 考えつつ、口を開く。

「真砂の傍にいるのが、楽しいんだよね」

 全く頭になかった答えだったのだろう。
 清五郎が、思いきり眉間に皺を寄せて、口を開いた。
 『はあぁぁ?』とでも言いたそうな口の形だが、よっぽど驚いたのか、声は出ない。

「いや、楽しいっていうか……。ううん、楽しくはないな。いやでもね、う~ん、あの真砂が、何て言うか、わらわに頼らざるを得なくなるのが楽しいというか」

 そう言ってしまうと、何か深成の性格が曲がっているような感じだ。
 そうじゃなくてぇ、と、深成は思いきり眉をハの字に下げて首を捻る。

「……真砂がさぁ」

 しばらく考えてから、少し言いづらそうに、深成は横を向いたまま、ぽつりと言った。

「わらわに心を開いてくれるのが、嬉しいっていうか……」

 清五郎が、片眉を上げた。
 慌てて深成は、ぶんぶんと顔の前で手を振る。

「い、いや。いやいやいや。心を開くっていうか、いや、そんな良いもんじゃないよ。何て言うか、ちょっとずつでも、歩み寄ってくれてるっていうか」

「真砂が?」

「あ、あのね。あの、ほんとに大したことじゃないと思うんだけど、真砂、わらわの作ったお粥、食べたの」

 清五郎は黙っている。
 いまいち怒っているのか何なのかわからず、深成は、え~とえ~と、と、最近の真砂の態度を思い出した。
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