夜香花
「お前はほんとに、里の者とは全然違うな。まぁ……だからこそ、真砂もお前とは親しくなれたんだろうが」

「? あんたも、真砂とは親しいじゃん? あんちゃんも、一番親しいって言ってたよ?」

「あんちゃん?」

「捨吉あんちゃん」

 深成の答えに、清五郎は、ははは、と笑い声を上げた。

「あいつか。なるほどな。確かに捨吉は、ガキの面倒もよく見るな。しかし、捨吉を『あんちゃん』と呼ぶほど懐いてるくせに、真砂のほうが好きなのか。もうちょっと大人だったらわかるが」

「ええっ! な、何でそうなんの」

「捨吉のほうが歳も近いし、優しいだろ?」

「そりゃ、真砂とは、だんちの差だよ」

「だったら捨吉のほうに靡くんじゃないか?」

「あんちゃんだって好きだよ。おじぃちゃんも好きだし、よく考えたら、結構いい人ばっかりなのかな」

 あ、でも羽月には嫌われてるしな、とぶつぶつ言う深成に、清五郎は笑いながら相槌を打つ。

「お前はやっぱり、忍びじゃないよ。そんな簡単に人を信用するのは命取りだぜ。ちょっとは真砂を見習うんだな」

 言いながらも、清五郎は、深成の不思議さを感じていた。
 警戒心が致命的にない、とは散々真砂から聞いていたし、己も実際見てきている。
 だが反対に、不思議と相手に警戒心を抱かせない、という特徴があるようだ。

 深成は、するりとこちらの心の中に入ってくる。
 自分のことも開けっぴろげ、相手のことも警戒しない。

 子供そのものの純粋さというのだろうか。
 いまだにそれを保っているというのは、特殊能力といってもいいだろう。
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