夜香花
「あれは異常だよ~」

 そんな清五郎の心には気づかず、口を尖らせて深成が言う。

 そうこうしているうちに、元の場所に戻ってきた。
 真砂は先程と同じ位置に座っている。
 が、その傍らには千代がいた。

「おやおや、早速か。まぁこの五日間、あいつも苛々しっぱなしだったからなぁ」

 清五郎が、二人を見て言う。
 千代が真砂の元へと飛んでいくのは、当たり前のことだ。
 特に気にすることもなく、清五郎は辺りを見回して、向こうのほうにいた捨吉に、芋を持ってくるよう命じる。
 すぐに捨吉が、大きな芋を二つ、持ってきてくれた。

「ちゃんと頭領の面倒、見てくれたんだね。お前も膝の怪我、大丈夫か?」

「うん。あんちゃんがくれた薬草、真砂に作ってさ、残った分を塗っておいた。よっく効くねぇ」

 ちょい、と足を蹴り出して言う。
 そこには着物の袖と思われる布が巻き付いていた。

「ん? その布……」

「あれ、ちゃんと白い布も渡したろ? 綺麗な布使ったほうがいいよ?」

 清五郎と捨吉が、深成の膝に巻かれた布を見て言う。
 が、深成は慌てて、布を押さえた。

「あ、わらわはこれでいいの。綺麗な布は、真砂に使ったほうがいいし。それに、これは繋げたら、また着物も着られるようになるし」

「着物?」

「これ、真砂の着物の袖だから」

 普通の者なら、ここで心の底から驚くだろう。
 だが清五郎も捨吉も、何か思うところがあるらしく、へぇ、と呟いただけだった。
< 447 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop