夜香花
「とりあえず、今はお前は、真砂には必要だろう」

 清五郎はそれだけ言って、離れていった。
 深成は両手に芋とキノコ、山菜を抱え、真砂に近づく。
 捨吉は思いついたように、その辺の枯れ枝を集めてくれた。

 千代は真砂の横に座り込んで、何かを必死に訴えている。
 が、真砂はいつものように、木にもたれたまま反応していない。

 おそらく、左腕の状態などを聞いているのだろう。
 手当てを申し出ているのかもしれない。

「真砂。お芋もらったよ。キノコと山菜も採ってきたから、ご飯作るね」

 深成が声をかけた途端、千代が、キッと顔を上げた。
 がばっと立ち上がり、目にも留まらぬ速さで、深成をひっぱたく。
 いきなりなことに、深成はその場に、派手に転がった。

「何しゃあしゃあと言ってんだいっ! 真砂様をこんな風にしておいて、いまだに真砂様にくっついてるなんて、どういう神経してるんだ!」

 一瞬何が起こったのかわからず、深成は転がったまま、目の前に転がる芋を見つめた。
 やがて、じんじんと頬が痛んでくる。

「あんたみたいな奴が傍をうろちょろするから、邪魔になるんだよ! お前が邪魔をしたから、真砂様がこんな大怪我負ったんだろうが!!」

「千代姐さん! 想像だけで、こいつを責めないでくださいよ」

 たまらず捨吉が声を上げた。
 真砂がそう言ったわけではないのは明白だ。
 そんな話自体、普通の状態でもしない。

 捨吉の言うとおり、千代は自分の想像だけで文句を言ったのだが、深成は唇を噛んだ。
 千代の言うことは当たっている。
 理由はどうあれ、真砂の怪我が深成のせいなのは確かだからだ。
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