夜香花
 その頃、深成は大きな桶を抱えて、小さな河原に座り込んでいた。

「うんしょ。よいしょっと」

 一抱えもある桶に汲んだ水を、持ち上げようと奮闘する。
 捨吉が、笑いながら手伝ってくれた。

「ほら、あんまりいっぱい入れすぎると、持てないだろ。持ち上げられるぐらいにしなよ」

 水を汲みに行きたい、と言う深成に、捨吉は桶を一つ貸してくれた。
 竹筒ぐらいでは追いつかない。
 捨吉も一つ桶を持って、二人して水場にやってきたのだ。

 深成の抱えている桶を一旦降ろし、捨吉は腰に挟んでいた手拭いを川に漬けた。
 それを絞って、深成の頬につける。

「腫れてるなぁ、大丈夫か?」

 千代にぶたれた頬だ。
 まだ赤く腫れているらしい。

 あ、と深成は、捨吉が渡してくれた手拭いを押さえた。
 思い出した途端、ひりひりと頬が痛み出す。
 同時に千代に言われたことが蘇り、深成は、しょぼんと下を向いた。

「全く千代姐さんは。頭領のこととなると、見境ないんだから」

 よしよし、と深成の頭を撫で、捨吉は河原に腰を下ろした。
 深成も横に腰を下ろし、やがて小さく呟く。

「……わらわ、どうすればいいの」

 ん? と捨吉が覗き込む。
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