夜香花
「それって、そんなに凄いことなの?」

 幼い上に、戦の経験もない深成には、その辺の事情というものは、さっぱりわからない。
 捨吉も、そう大人でもないが、乱破だけに、戦には影から参加してきた。

 といっても、徒党を組んで攻める忍びの種類ではなく、指定された人物の暗殺が主だ。
 それであっても、戦がどういうものかはわかる。

「凄いことだよ。俺の知る限り、そんな待遇受けてる負将いないよ? 殺してしまうには惜しいと思わせるだけのお人なんだろうよ。だからこそ、お前を取り戻す方法も、そんな無茶はしないだろう。お前だけを、こそっと攫うようなやり方じゃないかな」

「よくおわかりで」

 いきなり聞き覚えのない声がし、二人は勢い良く振り向いた。
 が、捨吉が声の主を見極める前に、いきなり後ろから両腕を押さえられ、首に腕が巻き付く。

 それなりの腕を持つ捨吉を、一瞬のうちに、完全に拘束したのだ。
 ただ者ではない。

「あんちゃんっ!!」

 深成が、腰に差していた懐剣を取る。
 捨吉の後ろにいるのは、忍び装束を纏った長身の男だ。

 深成は懐剣を抜いた。
 その刀身を、男は見る。
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