夜香花
「あんちゃんを放せっ」

 深成が、懐剣を構えて突っ込む。
 そのなりふり構わぬ攻撃に、捕まっている捨吉のほうが慌てた。

 こんな攻撃、簡単に破られる。
 折角真砂が助けたのに、こんなところでやられてしまったら、合わす顔がないではないか。

「よ、よせ。危ないっ……」

 捨吉が叫んだ途端、ふ、と戒めが解けた。
 同時に、いつの間に移動したのか、捨吉の前に、一人の男が跪いていた。

 驚いた表情の深成が、そのまま男に突っ込む。
 止めようにも、止まらなかったのだろう。

 だが構えた懐剣は、何故かするりと男の脇に流れた。
 突っ込んでいった勢いのまま、その場に転がりそうになった深成を、男はふわりと支える。

「……」

 その、あまりの優しい手つきに、深成は思わず、まじまじと男を見た。
 どこかで見たような……。

「深成……」

 囁くように言い、捨吉が深成を引き寄せる。
 そして、苦無を構えた。
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