夜香花
 闇の中を、一人の少女が身を低くして進んでいる。
 目指す里は、すぐそこだ。

 ふと少女は、足元に目を落とした。
 足を引っかけたら、張り巡らされた縄と木札が音を立てる罠がある。

 一旦立ち止まり、少女は周りを見回した。
 漆黒の闇なのに、少女は確実に罠を避けて歩き出す。

 里に近づくにつれて、息を整え、気配を消す。
 常人に出来る技ではない。

 首尾良く里に入ると、少女は迷いなく外れのほうへと進んだ。
 ぽつんとある、小さな家に視線を注ぐ。

---あそこだ---

 まつである。
 あの後、とりあえず傍の側溝へ身を沈め、戦をやり過ごした。
 あのような往来で見つかれば、どうなっていたかわからない。

 日が高くなるまで溝の中で過ごし、屋敷が完全に焼け落ちた頃、そろそろと身を起こして、その場から立ち去ったのだ。

 まつは細心の注意を払いながら、家に近づくと、一気に入り口まで走った。
 入り口にかかる簾の横で、息を整える。
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