夜香花
「細川の動きを警戒していた殿と、どちらにつくか悩んでおられた舅殿の思惑で、於市様は間者としての役目を負い、細川に潜り込まれた。殿は渋ったが、舅殿が信頼の置ける家臣を付けるというので、やむなくな。万が一殿や舅殿が討ち死にしても、全く関係のない細川の、まして女ばかりの屋敷にいれば、難を逃れられるやもしれぬしの」
「姫君ともあろう者が、そんな役目を負ったのは、こいつが忍びの技を身につけていたからか」
真砂の指摘に、六郎は薄く笑った。
「於市様は、産まれたときから我らと過ごしていたといっても過言でない。姉君よりも随分やんちゃで、男子のような於市様を、殿はことのほか可愛がっておいでだった。我らとの遊びが、知らず知らずのうちに忍びの修行になっておったのだろう。三つの頃には、殿も目を見張るほどの忍び術を身につけておられた」
ちら、と真砂は、己の左腕に布を巻く深成を見た。
このガキが、姫君。
「……それで?」
しばしの沈黙の後、真砂が口を開いた。
六郎が、視線を返す。
「こいつを九度山に連れて帰るために、お前は来たのか」
しばらくじっと真砂を見つめた後で、六郎はまた、小さく笑った。
「細川の城下の屋敷が落ちたときは、肝を冷やした。まさか三成公が、あのような手を使うとはね。すでに舅殿は出陣されていたし、於市様についての情報も途絶えて愕然としたものだ。まさか忍びの里に匿われていたとはね」
「姫君ともあろう者が、そんな役目を負ったのは、こいつが忍びの技を身につけていたからか」
真砂の指摘に、六郎は薄く笑った。
「於市様は、産まれたときから我らと過ごしていたといっても過言でない。姉君よりも随分やんちゃで、男子のような於市様を、殿はことのほか可愛がっておいでだった。我らとの遊びが、知らず知らずのうちに忍びの修行になっておったのだろう。三つの頃には、殿も目を見張るほどの忍び術を身につけておられた」
ちら、と真砂は、己の左腕に布を巻く深成を見た。
このガキが、姫君。
「……それで?」
しばしの沈黙の後、真砂が口を開いた。
六郎が、視線を返す。
「こいつを九度山に連れて帰るために、お前は来たのか」
しばらくじっと真砂を見つめた後で、六郎はまた、小さく笑った。
「細川の城下の屋敷が落ちたときは、肝を冷やした。まさか三成公が、あのような手を使うとはね。すでに舅殿は出陣されていたし、於市様についての情報も途絶えて愕然としたものだ。まさか忍びの里に匿われていたとはね」