夜香花
「その男の分は、於市様が作るのですか?」

「だって真砂、わらわが作らなかったら、自分で作るんだもん。まだ本調子でもないのにさ、無理するから」

 ぷぅ、と頬を膨らます深成に、六郎は微妙な顔になり、長老は密かに表情を和らげた。
 そんな二人を気にもせず、深成は自分の分を器に取ると、ふぅふぅと冷まして、ぱくりと芋を口に入れた。

「はふはふ。ん~、やっぱり塩加減て難しいなぁ。ちょっと薄いね?」

 真砂を見ながら言う。
 真砂は特に何も言わないが、別に深成も返事を期待していないようで、そのままもぐもぐと芋汁を食べ続けた。

「頭領。お身体の調子は、いかがで?」

 しばらくしてから、長老が真砂に聞いた。

「もう大丈夫だ。熱も下がったしな」

「ほんとにぃ~?」

 ぶっきらぼうに言う真砂に、深成が疑わしげな目を向ける。
 真砂はちらりと深成を見、ふん、と鼻を鳴らした。

「俺がそんなヤワだと思うのか」

「ふらふらだったくせに、何強がってんのよ」

 い~っと顔を突き出す深成に、真砂は少し顔をしかめた。
 そんなやり取りを、六郎は相変わらず微妙な顔で見つめる。
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