夜香花
「なるほど。湯浅が元々深成の党の一員で、もしかしたら頭領に仕えていたのかもな。話を聞く限り、結構な腕だったようだし。だからこそ真田も大谷も、湯浅にこいつを預けたんだろう。湯浅は表立って丁重に扱うわけにはいかないから、せめてもの敬意を込めて、こいつに頭領の名を与えたのか」

 六郎にとっては主に当たる真田家も、主の舅に当たる大谷家も、その殿に仕える湯浅五助も変わりなく呼び捨てにする真砂に、六郎は少し面食らった。
 言ってしまえば、今この場での身分が最も低いのが、真砂や長老などの、この乱破たちなのだ。

 だがそれは、きちんとした公式の場に出ることのある者の感覚だろう。
 真砂たちには主がない。
 この党の者たちにとっては、どこぞの大名よりも、真砂のほうが上なのだ。

---確かにこの者、歳に似合わぬ威厳がある---

 六郎よりも年下だろうに、真砂には他者をひれ伏させる空気がある。
 一党を率いるに値する人物であるのが、一目でわかるのだ。

「それで、こいつを迎えに来たのは、今のうちに血を残す算段のためか?」

 しげしげと真砂を観察していた六郎は、顔を上げた。
 真砂と視線がぶつかる。

 思わぬ鋭い視線に、六郎は一瞬身を竦めた。
 が、すぐにこのような若造に恐怖したことを恥じる。

「今はこいつの父親は、幽閉の身だそうだな。負けた武将なのに幽閉で済んだのも大したもんだが、いつその処遇が変わるかわからない。悪い方向に動く前に、手を打っておこうという肚か。どっかの武将と同盟を結ぶつもりなのかな。そっちのほうがありそうだな。目を付けた武将と婚姻させれば同盟も成るし、ゆくゆくは血も残せる」
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