夜香花
「そ、そんなん、やだって!」
真砂の言葉を即座に拒否する深成だったが、真砂は怪訝な表情になる。
「だから、嫌だとかそういう問題じゃないって言ったろ。武家の娘の宿命だな」
「わらわ、武家の娘として育ってないもん! そんな目に遭うんだったら、ここにいたい」
「ここにいたって、お前に何の利がある。戻れば姫君としての生活が待ってるんだぜ。悩むこともあるまい」
「好きでもない人のところに嫁がされるためだけに、姫君になるなんて嫌だ!」
「何度言えばわかる。なるとかならないとかじゃない。お前は元々そうなんだ。知らん男のところへ嫁ぐことの、どこがそんなに嫌なんだ」
誰でも一緒だろうが、とでも言いたそうな真砂に、深成は、キッと目を向けた。
「真砂には特別に想う人がいないんだろうけど。それに男だから、誰とでもそういうことが出来るんだよ」
「そういうこと?」
首を捻る真砂に、深成は赤くなって口をつぐんだ。
その様子で、何のことを言っているのかを理解した真砂だが、ああ、と呟いただけで、依然納得いかない顔のままだ。
「男だからとか女だからとか、そういう問題か? この里の女子だって、誰かと夫婦(めおと)になるまでは、夜這いを拒むこともないぜ。大体、誰とやろうが一緒だろう」
淡々と言う真砂に、六郎も捨吉も、呆気に取られる。
真砂は本当に、人の心というものがない。
捨吉だって、今はまだ特に心惹かれる女子はいないが、いずれは夫婦となることを望むような、特別と思える子が現れるだろう、ということぐらいはわかる。
夫婦となる相手というのが、自分にとってその辺の女子と違うというのはわかるのだ。
だから深成の言う、好きでもない男の元へと嫁ぐのが嫌だという気持ちも理解できる。
だが真砂は本当に、そういった人を想う感情というものが理解出来ないらしい。
人を激しく嫌うこともないが、好くこともない。
女子を抱くのも、欲望の捌け口なだけ。
だから特に決まった者でなくても良いのだ。
長老だけは、そんな真砂の性格を知り抜いている。
驚く代わりに、ひっそりと悲しそうな目で真砂を見た。
真砂の言葉を即座に拒否する深成だったが、真砂は怪訝な表情になる。
「だから、嫌だとかそういう問題じゃないって言ったろ。武家の娘の宿命だな」
「わらわ、武家の娘として育ってないもん! そんな目に遭うんだったら、ここにいたい」
「ここにいたって、お前に何の利がある。戻れば姫君としての生活が待ってるんだぜ。悩むこともあるまい」
「好きでもない人のところに嫁がされるためだけに、姫君になるなんて嫌だ!」
「何度言えばわかる。なるとかならないとかじゃない。お前は元々そうなんだ。知らん男のところへ嫁ぐことの、どこがそんなに嫌なんだ」
誰でも一緒だろうが、とでも言いたそうな真砂に、深成は、キッと目を向けた。
「真砂には特別に想う人がいないんだろうけど。それに男だから、誰とでもそういうことが出来るんだよ」
「そういうこと?」
首を捻る真砂に、深成は赤くなって口をつぐんだ。
その様子で、何のことを言っているのかを理解した真砂だが、ああ、と呟いただけで、依然納得いかない顔のままだ。
「男だからとか女だからとか、そういう問題か? この里の女子だって、誰かと夫婦(めおと)になるまでは、夜這いを拒むこともないぜ。大体、誰とやろうが一緒だろう」
淡々と言う真砂に、六郎も捨吉も、呆気に取られる。
真砂は本当に、人の心というものがない。
捨吉だって、今はまだ特に心惹かれる女子はいないが、いずれは夫婦となることを望むような、特別と思える子が現れるだろう、ということぐらいはわかる。
夫婦となる相手というのが、自分にとってその辺の女子と違うというのはわかるのだ。
だから深成の言う、好きでもない男の元へと嫁ぐのが嫌だという気持ちも理解できる。
だが真砂は本当に、そういった人を想う感情というものが理解出来ないらしい。
人を激しく嫌うこともないが、好くこともない。
女子を抱くのも、欲望の捌け口なだけ。
だから特に決まった者でなくても良いのだ。
長老だけは、そんな真砂の性格を知り抜いている。
驚く代わりに、ひっそりと悲しそうな目で真砂を見た。