夜香花
「家紋入りの懐剣か?」

 真砂の問いに、六郎は、ああ、と頷いた。

「それもある。が、もっと確かな証拠がある」

 そう言って、六郎は後ろでまとめた髪を、耳の上で掻き上げた。

「於市様は、右耳の後ろに、僅かな傷と、痣がある」

 え、と耳に手をやる深成だが、当然耳の後ろなど、自分では見えない。
 真砂が、ちょい、と手を伸ばして、深成の髪を掻き上げた。

 六郎は深成に触れるのを避けるため、自分で場所を示して見せたわけだが、真砂は何ら気にすることなく、深成に触れた。
 少し、六郎の心に漣(さざなみ)が立った。

「……なるほどな」

 深成の耳の後ろには、確かに小さな傷と痣があった。
 刀傷のような、綺麗なものではない。
 それであれば、消えるだろう。

 もうちょっと酷い、かぎ裂きのようなものだ。
 幸い小さく、髪で隠れるため、言われないとわからないが。

「ほんとだ。これ、どうしたの?」

 捨吉も後ろから覗き込んで言う。
 深成は首を傾げた。

「そういえば、何かちょっと寝込んだことがあったような。それかな?」

「ええ。昔、殿と遊んでいて、茶室の囲炉裏に転げ落ちたのですよ。そのときに、自在鉤がかすったのです。幸い傷自体は、そう大したものではありませんでしたが、殿はお方様に、こっぴどく叱られておりましたな」

 くすくすと笑いながら、六郎が言う。
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