夜香花
 捨吉は何も言えずに、ぼたぼたと涙を流す深成を見つめた。
 六郎も痛ましげな目を向けている。

 主家の姫君が、あのような優しさもなさげな乱破の男のために、ここまで悲しむのが信じられない。
 まだしも今慰めている少年のほうが、姫のことを想っているだろうに、と思いつつ、六郎は捨吉を見た。

 だがやはり、やっと見つけた姫君を、このような野蛮な乱破の群れに置いておくわけにはいかない。

「……於市様。さぁ、急がねば」

 六郎に促され、深成は涙を拭って顔を上げた。

「あんちゃん、元気でね」

 これ以上止めることも出来ず、捨吉は、深成が持っていた袋を取った。
 真砂が渡した、苦無の袋だ。
 それを、深成の腰に付ける。

「気をつけなよね。ちょっと重いかもしれないけど、頭領の苦無は手入れが行き届いてるから、使いやすいよ」

 そう言って、ちらりと深成の膝に視線を落とした。
 そこにはまだ、真砂の着物の袖が巻き付いている。
 結局返しそびれてしまった。

「……頭領の袖で傷を縛ったってことは、頭領が手当てしたんだね」

 深成は、少し赤くなって俯いた。
 汚れた傷口を、真砂が吸って綺麗にしてくれたのだ。
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