夜香花
「大体わらわ、真砂にろくなことされてないのに、何でそんな人のこと好きになるのさ。わらわ、そんな趣味悪くない……」

「そだね。それはそうかも。お前もさ、まだよくわからないだろ? それは頭領だって同じ事さ。お互い相手のことは気になるけど、それが何でなのかがわからないで、戸惑ってる。ははっ、そう考えると、お前も頭領も、なかなか似た者同士だなぁ」

 何だか捨吉のほうが、真砂よりもこういう心の機微には詳しいようだ。
 捨吉は顔を上げると、六郎を見た。

「何か協力が必要になったら、『矢次郎茶屋』に繋ぎを取ればいい。俺たちはあんたらが知ってるどの忍びよりも、優秀だと思って貰って間違いないぜ」

「これは、大きく出たな」

 捨吉の物言いに驚いた六郎だが、真っ直ぐに見る少年の強い瞳に、あながち大言(たいげん)でもないかもな、と密かに思う。

「……まぁ、そのような事態にならぬことを祈るがな。では」

 再度六郎に促され、深成はもう一度、ちらりと仮里のほうを見た。
 しばらくしてから、捨吉に目を戻し、少しだけ笑みを浮かべる。

「さよなら」

 はっきりと、決別の言葉を口にすると、深成は走り出した。
 六郎が後を追う。

 さすが、十勇士というだけあり、最早追いつけない速さだ。
 深成も本気で走っているのだろう。

「……遊びに行くよ!」

 みるみる小さくなる影に向かって、捨吉は叫んだ。
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