夜香花
「姫の様子はどうじゃ?」
薄暗い部屋で、燭台の光が、四つの影を浮かび上がらせている。
そのうちの一つが発した言葉に、対面に座っていた二つの影が、『はっ』と膝を進めた。
「相変わらず……といえば相変わらず。今日は気分が良かったのか、外で午睡をしておられましたが」
「そうか。だが、少しは元気になったと思っていいのだろうか」
ため息をつきつつ、先に言葉を発した男が、手に持った扇を顎に当てて言った。
男はこの屋敷の主、真田信繁だ。
その横に控えるのは、正室の利世。
「お小さい頃は、あんなに活発でやんちゃで明るくていらしたのに。やはりあんなに小さいうちから、間者などとして敵方に潜ませたのが悪かったのでは?」
じろ、と利世が、信繁を見る。
その非難がましい視線に、うむむ、と信繁は扇で額を掻いた。
「わしだって、好きこのんで愛娘を敵陣に送ったわけではない。万が一のことがあった場合、女だけの細川屋敷は安全だろうと思った故じゃ」
「女子だけの屋敷なぞ、殿が負けたら格好の餌食になるではありませぬか。東軍は勝ったものの、屋敷は炎に落ちましたし。お玉殿のことは尊敬いたしますけども、あの折に於市が炎に巻かれていたら、わたくし、どうにかなってしまっていましたわ」
びしびし、と膝頭を叩く利世に、信繁はまた、うむむ、と唸った。
薄暗い部屋で、燭台の光が、四つの影を浮かび上がらせている。
そのうちの一つが発した言葉に、対面に座っていた二つの影が、『はっ』と膝を進めた。
「相変わらず……といえば相変わらず。今日は気分が良かったのか、外で午睡をしておられましたが」
「そうか。だが、少しは元気になったと思っていいのだろうか」
ため息をつきつつ、先に言葉を発した男が、手に持った扇を顎に当てて言った。
男はこの屋敷の主、真田信繁だ。
その横に控えるのは、正室の利世。
「お小さい頃は、あんなに活発でやんちゃで明るくていらしたのに。やはりあんなに小さいうちから、間者などとして敵方に潜ませたのが悪かったのでは?」
じろ、と利世が、信繁を見る。
その非難がましい視線に、うむむ、と信繁は扇で額を掻いた。
「わしだって、好きこのんで愛娘を敵陣に送ったわけではない。万が一のことがあった場合、女だけの細川屋敷は安全だろうと思った故じゃ」
「女子だけの屋敷なぞ、殿が負けたら格好の餌食になるではありませぬか。東軍は勝ったものの、屋敷は炎に落ちましたし。お玉殿のことは尊敬いたしますけども、あの折に於市が炎に巻かれていたら、わたくし、どうにかなってしまっていましたわ」
びしびし、と膝頭を叩く利世に、信繁はまた、うむむ、と唸った。