夜香花
「於市。婚礼の着物は、どのようなものがよろしいかしら」

 相変わらずうららかな日和を、障子を開け放って眺めていた深成に、利世が声をかける。

「謹慎中とはいえ、婚礼ぐらいはきちんとしなければ、お家の恥にもなりますしね。単は絹であつらえて……」

 真っ白い反物を広げる利世に、深成はぼんやりと目を向けた。
 利世は反物を深成の肩にかけながら、ちらりと辺りを窺った。

「六郎。こういう場は、遠慮なさい。聞き耳を立てられていたら、砕けた話も出来ません」

 部屋の外を走る回廊の隅、障子の陰から、はぁ、と六郎の声がした。
 同時に少し身を進め、六郎は回廊に姿を現す。

「しかし、それがしは、こういう時期こそ注意深くなるのです」

 回廊に控えたまま、六郎が意見を述べる。

「この婚礼を、快く思わない者とているでしょう」

「たとえば?」

「東軍の中には、殿の処遇を苦々しく思っている者もおりましょう。そういった者は、謹慎中に有力大名との婚姻などと、因縁をつけることもありましょう」

 ふぅ、と利世はため息をつく。

「殿はいささか楽観的な部分がおありだけれど、あなたは心配しすぎですね。まぁ、忍びたるもの、そうあるべきなのでしょうが」

 そう呟き、特に人払いすることもなく、利世は深成に目を向けた。
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