夜香花
「ねぇ於市。お前は幸せかしら」
何気ない風に言った利世に、深成は顔を向けた。
「此度の婚儀も、お家のことが絡んでないわけではないけども、一番はやはり、お前のことを想うが故のことなのですよ。殿方に守られて、幸せな家庭を築く……。わたくしや殿が、お前にしてやれなかったことを小十郎殿に託そうということなのですけども、それで本当に、お前は元気になれるかしら」
「……」
「わたくしは、殿のことは信じております。小十郎殿も、殿がこれと思った若者であれば、間違いはないでしょう。でも、お前はどうかしら。小十郎殿はもちろん、殿だってわたくしだって、於市にとっては、さほど変わらないほど、遠い人間ではない?」
「そんなことは……」
ようやく、深成の口が動いた。
利世は少し微笑むと、回廊に控える六郎に目を移す。
「六郎が、乱破の里には、於市を想う者が沢山いた、と言っておりました」
静かに言う利世を、深成はじっと見た。
「里から出るときに、於市は泣いたそうね?」
「……六郎にも言いましたけど、別にわらわは、ここに帰ると決めたことに、後悔はしてません」
「そうね。その言葉にも心にも、嘘はないでしょう。里が恋しい、とも……思わないのではない?」
深成の髪を梳きながら、利世は優しく言う。
深成は少し首を傾げた。
「……どうしてるかな、とは、たまに思いますけど」
何気ない風に言った利世に、深成は顔を向けた。
「此度の婚儀も、お家のことが絡んでないわけではないけども、一番はやはり、お前のことを想うが故のことなのですよ。殿方に守られて、幸せな家庭を築く……。わたくしや殿が、お前にしてやれなかったことを小十郎殿に託そうということなのですけども、それで本当に、お前は元気になれるかしら」
「……」
「わたくしは、殿のことは信じております。小十郎殿も、殿がこれと思った若者であれば、間違いはないでしょう。でも、お前はどうかしら。小十郎殿はもちろん、殿だってわたくしだって、於市にとっては、さほど変わらないほど、遠い人間ではない?」
「そんなことは……」
ようやく、深成の口が動いた。
利世は少し微笑むと、回廊に控える六郎に目を移す。
「六郎が、乱破の里には、於市を想う者が沢山いた、と言っておりました」
静かに言う利世を、深成はじっと見た。
「里から出るときに、於市は泣いたそうね?」
「……六郎にも言いましたけど、別にわらわは、ここに帰ると決めたことに、後悔はしてません」
「そうね。その言葉にも心にも、嘘はないでしょう。里が恋しい、とも……思わないのではない?」
深成の髪を梳きながら、利世は優しく言う。
深成は少し首を傾げた。
「……どうしてるかな、とは、たまに思いますけど」