夜香花
「少なくとも、わたくしや殿は、そんなこと出来ませんわよ。そうね、それこそ六郎たちのような者でないと」

「於市様は、我らも驚くほどの能力をお持ちでした。あまりに楽しそうに我らと隠れ鬼などなさるので、殿も咎めることなく、返って才蔵に忍び術を教えてみよ、と仰せられたぐらいで」

 六郎も、頬を緩めて話に加わる。

「わらわ、六郎が驚くほどの忍び術を伝授されてたの?」

「いいえ。遊びの一環ですよ。隠れ鬼をする中で、忍びの基本的なことを教えていったんです。隠れ鬼は、忍びの基礎を学ぶには、良い遊びですからね」

 鬼に見つからないように隠れ、気配を絶つ。
 さらに鬼に見つからないよう移動を繰り返す。

 音を立てずに移動する。
 気配を絶つ。
 陰に潜む。

 敵陣で、いかに相手に見つからないかの技を磨けるのだ。

「爺も、わらわと遊びながら、そういうことを教えてたな」

「爺……ああ、五助殿ね」

「と言っても、わらわはそんなこと、思いもしなかったんだけど。例の乱破の里で、指摘されて初めてわかった」

「やはり見る人が見れば、そこまでわかってしまうものなのね。勿体ないわね、そんな優れた忍びが、完全に陰に埋もれているなんて」

「優れた忍びほど、そういうものなんですって。六郎とか才蔵も、名前しか世間の人は知らないって」

 里のことをぽつぽつ話しているうちに、徐々に深成の表情が明るくなる。
 僅かな変化だが、利世はそんな深成を、じっと観察した。
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