夜香花
 その夜、深成は久しぶりに、部屋の飾り棚にある小さな引き出しを開けた。
 可愛らしい棚には似つかわしくなく、そこに入っているのは実用一点張りの、使い古した小さい袋と、一枚の端切れ。

 そろ、と手に取ると、かちゃり、と音がし、僅かな重みが伝わる。

 袋の口を開け、深成は中から一本、苦無を取りだした。
 燭台の光を受けて、苦無が冷たい光を放つ。

 じっと見つめていると、心の底から何かが湧き上がってくるようで、慌てて深成は苦無をしまうと、引き出しを閉めた。
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