夜香花
 眩しい光に目を開けると、見覚えのない筵が目に入る。

「?」

 まつは目を擦ろうとして、初めて手が引き寄せられないことに気づいた。
 だが動かないのは右手だけだ。

 左手で目を擦りつつ、右手を見てみる。
 手首に縄を巻き付け、宙に浮いた右手……。

「熟睡するとは、なかなか良い度胸だな」

 これまた聞き覚えのない低い声に振り向けば、反対側の壁にもたれた男の鋭い視線に射抜かれる。

「おっお前はっ!!」

 やっと己の状況を思い出し、まつは真砂に向かって牙を剥いた。
 が。

「あっ……痛たたた」

 縛られた右手を動かすと、縄が食い込んだ手首が悲鳴を上げる。
 まつはぺたりと、その場に蹲った。
 手首を見てみると、血が滲んでいる。
 まつの目に、じわ、と涙が滲んだ。

「お前な……。それぐらいの怪我で、何を泣いてるんだ。俺を殺しに来たのだろう? ここまで来たのは褒めてやるが、その軟弱さでは、目的など到底遂げられんぞ」

 呆れたように言う真砂は、別段警戒もしていないように、片足を投げ出して座っている。
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