夜香花
「あなた様に関しては、損得抜きに、その身が危険になる可能性のほうが高いのですよ」

「え?」

 ぼそ、と聞こえた言葉に、深成は顔を向けたが、才蔵は軽く首を振ると、深成の手から野草の籠を取った。

「……婚儀を目前に何かあっては、それこそ小十郎様に、申し訳が立ちませぬ」

「まぁ……そうかもね」

 そう言って、深成は顔を上げた。
 頭上では散り始めの桜が、はらはらと踊っている。

「わらわは、山が性に合ってるのかも」

「そうですか? でも細川屋敷で暮らした年月のほうが、まだ長いでしょう?」

「そうだっけ。何か、町でのことって……ぼんやりしてて」

 首を傾げながら言い、深成は薄く笑うと、軽く頭を振った。
 何かを振り払うように、勢いを付けて立ち上がる。

「でもきっと、これからは町のほうが良いんだよ。こういう山の中にいたらさ、ふとしたことで、悲しくなりそう」

「何か、於市様を悲しませるようなことが?」

 窺うように言う才蔵に、深成は首を振る。
 そして遠くを見るように、空に視線を投げた。

「もう全部忘れるから、大丈夫」
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