夜香花
「父上がそこまで見込んだ殿方なら、小十郎様の元で穏やかに暮らすことの、どこが愚かなのです。そのような殿方に嫁げることは、わらわにとっても幸せでしょう?」
「そう……思っておった」
利世が注いだ杯を空け、信繁はそう言ったきり黙り込んだ。
信繁の言いたいことがよくわからず、深成の逸らした目が庭先に移った。
極力控えめに焚かれた松明が、桜を浮かび上がらせている。
影になったところには、十勇士たちが控えているのだろう。
夜に部屋を開け放つため、いつもよりも警護が厳しいようだ。
特に、利世の傍には才蔵が影の如く、ぴたりと付いている。
利世の膝には、まだ歩みもままならない嫡男が、寝息を立てているのだ。
謹慎中とはいえ、油断は出来ない。
ふと、利世の膝で幼子が声を上げた。
幸昌と名付けられたこの幼子は、しばらく利世の膝の上でむずかった後、きょろ、と周りを見渡した。
その澄んだ瞳が、深成を捉える。
途端に幸昌は笑顔になり、きゃきゃきゃ、と深成のほうへ、小さな手を差し伸べた。
「まぁまぁ。幸昌は本当に、於市が好きねぇ」
利世が笑いながら、幸昌を抱き上げる。
深成も笑みを浮かべ、利世に抱え上げられている幸昌を見た。
深成はこの幸昌が産まれて初めて、己より小さい子供を見た。
細川屋敷でも乱破の里でも、常に深成が一番小さかったのだ。
はっきり言って、このように小さな赤子をしげしげ見たのも初めてである。
珍しくて色々構っているうちに、深成はすっかり幸昌に懐かれてしまった。
「そう……思っておった」
利世が注いだ杯を空け、信繁はそう言ったきり黙り込んだ。
信繁の言いたいことがよくわからず、深成の逸らした目が庭先に移った。
極力控えめに焚かれた松明が、桜を浮かび上がらせている。
影になったところには、十勇士たちが控えているのだろう。
夜に部屋を開け放つため、いつもよりも警護が厳しいようだ。
特に、利世の傍には才蔵が影の如く、ぴたりと付いている。
利世の膝には、まだ歩みもままならない嫡男が、寝息を立てているのだ。
謹慎中とはいえ、油断は出来ない。
ふと、利世の膝で幼子が声を上げた。
幸昌と名付けられたこの幼子は、しばらく利世の膝の上でむずかった後、きょろ、と周りを見渡した。
その澄んだ瞳が、深成を捉える。
途端に幸昌は笑顔になり、きゃきゃきゃ、と深成のほうへ、小さな手を差し伸べた。
「まぁまぁ。幸昌は本当に、於市が好きねぇ」
利世が笑いながら、幸昌を抱き上げる。
深成も笑みを浮かべ、利世に抱え上げられている幸昌を見た。
深成はこの幸昌が産まれて初めて、己より小さい子供を見た。
細川屋敷でも乱破の里でも、常に深成が一番小さかったのだ。
はっきり言って、このように小さな赤子をしげしげ見たのも初めてである。
珍しくて色々構っているうちに、深成はすっかり幸昌に懐かれてしまった。