夜香花
 だが少しでも怪しいところのある者は、この乱世では、徹底して遠ざけられる。
 少しの油断が、失脚の種となるからだ。

 間者とまでは疑われなくても、他の者からはっきりと区別して育てられたのは、そのためだ。
 周りにもそれを知らしめるため、わざわざ見える印を施して。

「わらわは、これがある限り、小十郎様のところでも、同じような扱いを受けるのでしょうか」

 俯いて言う深成に、信繁は強く首を振る。

「いや、そんなことはない。少なくとも、小十郎殿は、そのようなお人ではない。まだ若いが、剛毅なお人ぞ。そのようなこと、気にもせぬわ」

「小十郎殿個人はそうでしょうけども。周りの人間もそうでしょうか? また於市が他家で辛い思いをするようなことになったら……。だからこそ、わたくしはこの機会に、あなたに『自由』を掴む機会を与えようというのです」

「え?」

 きょとんとする深成に、利世は身体を向けた。
 何か言いたそうな信繁を目で制し、姿勢を正して真っ直ぐに深成を見る。

「例え愚かな考えだとしても、わたくしは於市に幸せになって欲しい。そう言いましたね。あなたが心から求めるものがあるなら、それを追い求めてみるのも良い、と思うのです。お家に縛られることなく、自由にね」
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