夜香花
「まつ……とか言ったか」

 静かに言う真砂に、まつは目を向けた。
 先の眩しい光は、朝の光だ。
 もっとももう、随分日は高くなっているようだが。

 暗いところでしか見ていなかったが、真砂はなるほど、千代が夢中になるのもわかるほどの、整った顔立ちだ。
 闇に生きる乱破には、とても見えない。

 だが、まつは身を小さくした。
 真砂の瞳の力は、尋常ではない。
 睨まれただけで、心の臓が止まるほどの恐ろしさだ。

「……みなり」

「あ?」

「『まつ』はお方様が、そう呼んでただけ。深成(みなり)が、ほんとの名前」

 しん、と沈黙が落ちる。
 ややあって、真砂が、つい、と入り口を見た。

「清五郎か」

 真砂が言うと同時に、ゆらりと簾が揺れ、清五郎が入ってくる。
 そして、部屋の奥に蹲る少女を見た。
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