夜香花
第四十章
宴の跳ねた後、深成は自室でぼんやりと座り込んでいた。
灯りもつけず、着替えもしていない。
敷かれた布団の上に座り、引き出しから出した小さな袋と端切れを膝に置いていた。
---わらわが求めるもの……---
端切れを広げる。
ここに来て、唯一の持ち物であったこの二つを引き出しに入れてから、端切れのほうは一切触れていない。
小さく畳まれていた折り目が、くっきりとついている。
深成は手が震えるのを感じた。
苦無よりも、こちらのほうを避けてきた。
避けてきたわりに、長旅で汚れた深成の膝に巻かれていたこの端切れを、利世や侍女が捨てようとしても、頑として守ってきた。
汚れを洗い、一応綺麗にしても、元々使い古された布だ。
何かに再利用するほどの上質なものでもないし、若い娘が持つには地味な、単なる黒い布である。
それを深成は、ぎゅっと胸に押しつけた。
---駄目だって---
そう思い、強く目を瞑るが、ずっと心の底にあったものが、身体の奥から突き上げてくる。
---駄目だよ。今更、どうしようもない。もう忘れるんだからっ---
唇が白くなるほど強く噛みしめ、端切れを握る。
手の中で、黒地の端切れはくしゃくしゃになった。
そのとき。
灯りもつけず、着替えもしていない。
敷かれた布団の上に座り、引き出しから出した小さな袋と端切れを膝に置いていた。
---わらわが求めるもの……---
端切れを広げる。
ここに来て、唯一の持ち物であったこの二つを引き出しに入れてから、端切れのほうは一切触れていない。
小さく畳まれていた折り目が、くっきりとついている。
深成は手が震えるのを感じた。
苦無よりも、こちらのほうを避けてきた。
避けてきたわりに、長旅で汚れた深成の膝に巻かれていたこの端切れを、利世や侍女が捨てようとしても、頑として守ってきた。
汚れを洗い、一応綺麗にしても、元々使い古された布だ。
何かに再利用するほどの上質なものでもないし、若い娘が持つには地味な、単なる黒い布である。
それを深成は、ぎゅっと胸に押しつけた。
---駄目だって---
そう思い、強く目を瞑るが、ずっと心の底にあったものが、身体の奥から突き上げてくる。
---駄目だよ。今更、どうしようもない。もう忘れるんだからっ---
唇が白くなるほど強く噛みしめ、端切れを握る。
手の中で、黒地の端切れはくしゃくしゃになった。
そのとき。