夜香花
「真砂っ……!!」
名を口にした途端、深成の目から涙が溢れる。
この三年間、心の奥底に追いやっていた感情が一気に流れ出し、深成はぎゅっと、真砂に抱きついた。
「於市様っ!!」
深成に蹴られた衝撃で倒れ込んでいた六郎が、起き上がりながら必死で深成を呼ぶ。
「於市様、まさか、その者と行くおつもりか? 婚儀はどうなさるのです!」
見れば六郎だけでなく、回廊には利世の姿もあった。
「於市様は、この真田家の姫君ですぞ! 小十郎様のような、れっきとした武士の家に入るほうが、よほど安泰です。そのような身分もない男の元に走って、於市様に何の得があるのです!」
下から必死で言い募る六郎とは裏腹に、回廊に佇む利世は落ち着いている。
まるで今夜こういうことが起こることを、予測していたかのようだ。
そんな深成の思いに応ずるように、利世は一歩前に出ると、深成を見上げた。
「わたくしの於市は、やはり籠から飛び立ってしまったわね」
顔は上げているが、特に誰に言うでもないように呟く。
「小十郎殿に嫁ぐ予定だった於市は、病が重くなって……亡くなってしまった」
「お方様?」
六郎が、訝しげな顔を利世に向ける。
利世は、微かに笑みを浮かべると、軽く首を振った。
名を口にした途端、深成の目から涙が溢れる。
この三年間、心の奥底に追いやっていた感情が一気に流れ出し、深成はぎゅっと、真砂に抱きついた。
「於市様っ!!」
深成に蹴られた衝撃で倒れ込んでいた六郎が、起き上がりながら必死で深成を呼ぶ。
「於市様、まさか、その者と行くおつもりか? 婚儀はどうなさるのです!」
見れば六郎だけでなく、回廊には利世の姿もあった。
「於市様は、この真田家の姫君ですぞ! 小十郎様のような、れっきとした武士の家に入るほうが、よほど安泰です。そのような身分もない男の元に走って、於市様に何の得があるのです!」
下から必死で言い募る六郎とは裏腹に、回廊に佇む利世は落ち着いている。
まるで今夜こういうことが起こることを、予測していたかのようだ。
そんな深成の思いに応ずるように、利世は一歩前に出ると、深成を見上げた。
「わたくしの於市は、やはり籠から飛び立ってしまったわね」
顔は上げているが、特に誰に言うでもないように呟く。
「小十郎殿に嫁ぐ予定だった於市は、病が重くなって……亡くなってしまった」
「お方様?」
六郎が、訝しげな顔を利世に向ける。
利世は、微かに笑みを浮かべると、軽く首を振った。