夜香花
「お前も知っているでしょう。婚儀が近づくにつれて、於市は病が重くなっていったわ。殿の仰ったとおりだった。のびのび育った於市は、籠に閉じ込めたら死んでしまったのよ。於市にも、小十郎殿にも、可哀相なことをしてしまった」
「母上……」
深成が、涙でくしゃくしゃの顔を、利世に向ける。
自分の求めるものが何か、はっきりとわかってしまった。
だが。
深成は、きゅ、と真砂の右手を握った。
迎えに来てくれたこの手を離したくはないが、それは許されないことではないのか。
利世がもし、言葉通り今この場で真砂諸共深成を討つよう周りの兵に命じるのであれば、それも仕方ない。
単なる兵だけでなく、ここには十勇士もいるのだ。
片腕の真砂と深成では、太刀打ち出来ないだろう。
だけど、と、深成は真砂の腕の中から、利世に叫んだ。
「母上! ごめんなさい! わらわ、やっぱり小十郎様のところには行きたくない。この真砂といたいけど、それは父上の顔を潰すことになるのもわかってます。ここで皆に殺されても、しょうがないけど……。お願い、真砂は殺さないで!」
庭に控える兵の中には、弓を構えている者もいる。
今にも放たれそうな矢から守るように、深成は真砂の前に出て両手を広げた。
「真砂は片腕だけど、乱破の頭領なの。凄く強いから、戦ったら六郎たちだって、ただじゃ済まないよ。勝手なことしてるのはわらわだし、父上にも小十郎様にも申し訳ない。真砂を殺したところで、何にもならないでしょ。わらわを殺して申し開きが出来るなら、わらわは抵抗しないからっ!」
「母上……」
深成が、涙でくしゃくしゃの顔を、利世に向ける。
自分の求めるものが何か、はっきりとわかってしまった。
だが。
深成は、きゅ、と真砂の右手を握った。
迎えに来てくれたこの手を離したくはないが、それは許されないことではないのか。
利世がもし、言葉通り今この場で真砂諸共深成を討つよう周りの兵に命じるのであれば、それも仕方ない。
単なる兵だけでなく、ここには十勇士もいるのだ。
片腕の真砂と深成では、太刀打ち出来ないだろう。
だけど、と、深成は真砂の腕の中から、利世に叫んだ。
「母上! ごめんなさい! わらわ、やっぱり小十郎様のところには行きたくない。この真砂といたいけど、それは父上の顔を潰すことになるのもわかってます。ここで皆に殺されても、しょうがないけど……。お願い、真砂は殺さないで!」
庭に控える兵の中には、弓を構えている者もいる。
今にも放たれそうな矢から守るように、深成は真砂の前に出て両手を広げた。
「真砂は片腕だけど、乱破の頭領なの。凄く強いから、戦ったら六郎たちだって、ただじゃ済まないよ。勝手なことしてるのはわらわだし、父上にも小十郎様にも申し訳ない。真砂を殺したところで、何にもならないでしょ。わらわを殺して申し開きが出来るなら、わらわは抵抗しないからっ!」