夜香花
「お前は於市の魂ね」
利世が、築地塀の上の深成に言った。
「わたくしね、願掛けしたと言ったでしょう。神社よりも効き目のある、でもそれなりの見返りが必要なところにね。捜すのに苦労しましたのよ。決まったところにあるわけではないようなので」
利世の言葉に、築地塀の下の六郎が、唇を噛んだ。
「六郎と手の者に、捜させておりましたの。まぁ……その存在を教えてくれた六郎も、言葉でしか知らなかったお茶屋さんですから。そりゃあ苦労もしますわね。でも忍びの伝(つて)を駆使したお陰で、見つけることができましたの」
「お茶屋……?」
六郎の表情と、利世の言葉に、深成は考えた。
そして、はっと気づく。
里から出るとき、最後に捨吉が六郎に言っていた。
『渡りを付けるなら、矢次郎茶屋へ繋ぎをつけろ』と。
「……確かに、矢次郎が持ってきたわりには、変わった内容だったな」
ようやく真砂が口を開いた。
え、と深成は真砂を覗き込む。
「ま、真砂。真砂が来てくれたのは、指令を受けたからなの?」
自発的に来てくれたわけではなかったのかと、深成の顔が歪む。
真砂は少し、首を傾げた。
「正確には、指令を受けたわけではない。お前の状況を聞いただけ……か」
そう言って、ふい、と顔を背ける。
利世が、築地塀の上の深成に言った。
「わたくしね、願掛けしたと言ったでしょう。神社よりも効き目のある、でもそれなりの見返りが必要なところにね。捜すのに苦労しましたのよ。決まったところにあるわけではないようなので」
利世の言葉に、築地塀の下の六郎が、唇を噛んだ。
「六郎と手の者に、捜させておりましたの。まぁ……その存在を教えてくれた六郎も、言葉でしか知らなかったお茶屋さんですから。そりゃあ苦労もしますわね。でも忍びの伝(つて)を駆使したお陰で、見つけることができましたの」
「お茶屋……?」
六郎の表情と、利世の言葉に、深成は考えた。
そして、はっと気づく。
里から出るとき、最後に捨吉が六郎に言っていた。
『渡りを付けるなら、矢次郎茶屋へ繋ぎをつけろ』と。
「……確かに、矢次郎が持ってきたわりには、変わった内容だったな」
ようやく真砂が口を開いた。
え、と深成は真砂を覗き込む。
「ま、真砂。真砂が来てくれたのは、指令を受けたからなの?」
自発的に来てくれたわけではなかったのかと、深成の顔が歪む。
真砂は少し、首を傾げた。
「正確には、指令を受けたわけではない。お前の状況を聞いただけ……か」
そう言って、ふい、と顔を背ける。