夜香花
「驚いたな。ほんとに来たのか」

 感心したように言い、真砂の横に腰を下ろす。
 そして、にやりと笑った。

「夕べはこいつのお陰で、千代は褒美をもらい損ねたようだな。ご機嫌斜めだぜ」

「知ったことかよ。どうせまた、夜になりゃ来るだろ」

 それよりも、と、真砂は顎で少女---深成を指した。

「こいつ、深成というらしい」

「深成?」

 清五郎の眉間に皺が寄る。
 少し考え、何か思い出したように、深成を見た。

「赤目のほうの、小さい一派に、代々継がれる名前じゃないか」

 真砂が頷いた。
 確か、そのような忍び一族があった。
 だが、元々小さな一族だったため、あまり知る者もないまま、一族は絶えたはずだが。

「とすると、お前が最後の一人か」

 こくん、と深成は頷く。
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