夜香花
「我々と於市の、唯一の繋がり。於市の身の証であり、乱破の頭領との約束だったのかしら。ようやく役目を終えたのね」

 呟き、深成を振り返る。

「幸せにね、於市の魂さん」

「母上……」

 涙と共に、謝罪の言葉が口を突いて出そうになったが、深成はぶんぶんと、首を振った。
 そして、真っ直ぐに利世を見る。

「ありがとう!」

 笑顔で言った深成に、利世は満足そうに微笑んだ。
 そのまま、背を向けて屋敷内に姿を消す。
 深成は改めて、真砂の手を、ぎゅっと握った。

「行くぞ」

 真砂が、深成を抱えるように抱き寄せた。
 そのまま、築地塀を蹴って地に降りる。
 二人が屋敷の外に出るなり、暗闇の中から、たたた、と一つの影が駆け寄ってきた。

「あ! あんちゃん!」

「深成! 久しぶりだな」

 駆け寄ってきた捨吉は、以前よりも大分大人っぽくなっている。
 声も低くなったようだ。
 だが嬉しそうな顔は昔と変わらず、以前と同じように、深成の頭をぐりぐりと撫でた。

「綺麗になったね。ちょっとだけ、お姫様っぽくなったみたいだ」

「そ、そう? えへへ、あんちゃんも、大きくなったね。あんちゃんも来てくれたの?」

「うん。頭領は一人で行くって言ってたんだけど、さすがにそれは。幽閉先とはいえ、真田信繁は侮れない武将だからね。頭領には無断で、清五郎様とついてきた」
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