夜香花
「清五郎も来たのか」

 ちょっと渋い顔で、真砂が言う。
 だが捨吉は軽く肩を竦めた。

「清五郎様、お母さんみたいですよね。頭領のこと、放っておけないんですよ。ま、それは里の皆がそうなんですけど」

  全く、と言いながら、真砂は辺りを見回した。
 その清五郎の姿はない。

 真砂がきょろきょろしている間に、捨吉は、深成に顔を近づけ、こそっと耳打ちした。

「あのね、そりゃ元々頭領一人で行かす気はなかったけどさ。それよりも今回は特に、頭領が血相変えて飛び出して行こうとするしさぁ」

「え?」

「折角夜に宴を催すってんだから、それを狙ったほうが良いんじゃないかって言うのに、頭領は観月の宴なんて満月の夜に忍び込むなんて、阿呆のすることだって言ってさ、情報が来て、すぐに行こうとすんの」

「だ、だって。それはそうじゃない? 普通はこんな、月明かりばっちりの夜に忍び込もうなんて思わないでしょ」

「そうなんだけど。頭領の言い分も、理には適ってるんだけどね。きっとあのときは、そんな冷静じゃなかったと思うよ。とにかく早く深成を攫いに行きたかったんだ」

「……」

「頭領、深成が他の男のものになるのが、我慢できなかったんだよ」

 ぷぷぷ、と笑う捨吉だったが、不意にその頭が、ばこんと後ろから殴られた。

「捨吉……良い度胸だな」

 いつの間にか真砂が、捨吉の後ろに立って、氷の瞳で見下ろしていた。
 慌てて捨吉が、姿勢を正す。
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