夜香花
「ああ、あの、清五郎様は、頭領が話し込んでおられるのを見てから、先に野営地へ行っておく、と言ってました」
「早く言わねぇか」
渋面のまま歩き出そうとした真砂が、不意に深成の腕を掴んだ。
そのまま深成を、自分の後ろへ回す。
さわ、と風が吹き、塀の陰から、六郎が姿を現した。
真砂の目が鋭くなる。
深成は思わず、真砂の背にしがみついた。
しばらく黙って睨み合っていた真砂と六郎だが、やがて六郎のほうが、ふ、と目を伏せた。
「……於市様……。ほんに、よろしいのですね」
静かに言う。
「うん。ごめんね、六郎。でも後悔はしないから」
真砂の後ろから言った深成に、六郎はやっと、笑みを見せた。
が、すぐに表情を引き締め、真砂に視線を戻す。
「お主は、於市様を想うが故に、決まっていた真田家と片倉家の婚姻を潰してまで、於市様を奪いに来たのだな?」
「……」
「幼い頃からお仕えしてきた於市様を任せるのだ。いい加減な奴に、大事な姫君を渡すわけにはいかん」
返答如何では、この場で真砂を討ち果たすことも厭わないという気迫が、六郎の身体から発せられる。
深成も捨吉も、その気に息を呑んだ。
さすがに最強の知将とも言われる真田信繁に仕える精鋭の忍びだけある。
その辺の忍びとは、まるで違う。
だが。
「……ふん。口うるさい小姑だ」
深々と眉間に皺を刻んで、真砂が呟いた。
六郎のただならぬ強い気に凍り付いていた空気が、一気に崩れる。
「早く言わねぇか」
渋面のまま歩き出そうとした真砂が、不意に深成の腕を掴んだ。
そのまま深成を、自分の後ろへ回す。
さわ、と風が吹き、塀の陰から、六郎が姿を現した。
真砂の目が鋭くなる。
深成は思わず、真砂の背にしがみついた。
しばらく黙って睨み合っていた真砂と六郎だが、やがて六郎のほうが、ふ、と目を伏せた。
「……於市様……。ほんに、よろしいのですね」
静かに言う。
「うん。ごめんね、六郎。でも後悔はしないから」
真砂の後ろから言った深成に、六郎はやっと、笑みを見せた。
が、すぐに表情を引き締め、真砂に視線を戻す。
「お主は、於市様を想うが故に、決まっていた真田家と片倉家の婚姻を潰してまで、於市様を奪いに来たのだな?」
「……」
「幼い頃からお仕えしてきた於市様を任せるのだ。いい加減な奴に、大事な姫君を渡すわけにはいかん」
返答如何では、この場で真砂を討ち果たすことも厭わないという気迫が、六郎の身体から発せられる。
深成も捨吉も、その気に息を呑んだ。
さすがに最強の知将とも言われる真田信繁に仕える精鋭の忍びだけある。
その辺の忍びとは、まるで違う。
だが。
「……ふん。口うるさい小姑だ」
深々と眉間に皺を刻んで、真砂が呟いた。
六郎のただならぬ強い気に凍り付いていた空気が、一気に崩れる。