夜香花
 そのまま無言で歩き続け、やがて二人は、さらさらと流れる小川の傍に出た。
 少し向こうに、小さく火が燃えている。

「一旦休む。旅籠のほうが、お前は良いかもしれんがな」

「そんなの、どうでもいいけど」

 一応真砂は、深成のことを考えてくれているらしい。
 三年間、ちゃんとした家で過ごした深成を外で休ますことが、気になったのだろう。
 やはり少し心がざわつき、深成は、たた、と焚き火に駆け寄った。

「ね、これは? 誰かいるの?」

「清五郎が、用意して行ったんだろう。お前は無事に連れ出したし、後はそんな、ぞろぞろいなくてもいい。お前の体力の問題もあるし、先に帰した」

 短く説明しながら、真砂は腰につけていた竹筒を取り、中身を飲んでから、再び川の水で満たす。
 深成も真砂の隣で、手で掬った水を飲んだ。

---そうか。真砂、水を掬うことも出来ないんだな……---

 ちらり、と真砂を見る。
 肘から手首までの、丁度中間辺りだったので、普通にしている分にはわからない。
 手の先が出ていなくても、懐手をしているのかと思うだけだ。

 だが、よくよく見れば、黒い着流しの左袖は、右袖に比べて力がない。
 中にあるべき腕が途中までしかないのだから、当然なのだが。

 そ、と深成は、真砂の左腕に手を当てた。
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