夜香花
「最後の一人が、何故あんなところにいたのだ。お前も誰かからの命令で、室の命を狙っていたのか?」

「違うっ!」

 いきなり深成が、真砂を睨んで叫んだ。

「お方様は、わらわを不憫に思って、傍で使ってくれていた。わらわの一族は、昔の戦で殿に滅ぼされた故……」

 深成の言葉に、真砂は眉を顰めた。
 清五郎が、ちらりと真砂に目をやる。

「ふ~ん。けど、どうする? こいつ、頭領の命を狙うなんざ、身の程知らずもいいところだが」

 真砂は、じっと深成を見た。

「お前、本気で俺を殺す気があるのか?」

「……」

 深成は、ぎっと真砂を睨む。
 が、どう甘く見ても、この子供にそのような力があるとも思えない。

「一族は滅んだと言ったな。お前がいた屋敷も落ちた。室が死んだ今、帰る場所もあるまい」

「……だから、もうどうなってもいいんだ」

 下を向いて、深成は、ぼそ、と言う。
 真砂は少し考え、立ち上がると簾を払った。

「どこに行くんだ」

 清五郎が追ってくる。
 が、真砂は軽く地を蹴って、一瞬で姿を消した。
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