夜香花
 間近に感じた真砂の体温と、耳に流れ込んだ吐息とその言葉に、かっと深成の顔が赤くなる。
 ぎゅ、と口をへの字に曲げると、深成はくるりと真砂に背を向けた。

 が、真砂の左腕は掴んだままだ。
 真砂の胸に自分の背を当てる形で、深成は真砂の左腕を、抱きしめるように己の胸に当てた。

「……この怪我。真砂の人生をめちゃくちゃにしちゃったから、どうして良いのかわからないぐらい申し訳なかったけど……。でも……ちょっと、ちょっとだけ、嬉しかった」

 背を向けたまま、ぼそぼそと言う。

「真砂がさ……わらわのために、ここまでしてくれたんだって」

 我ながら、酷いことを言っている、と思っていた深成は、ふと僅かに背に重みを感じた。
 それに気付いた次の瞬間には、後ろから、ぎゅっと抱き締められる。

 しばらく深成の首筋に顔を埋めていた真砂は、やがてそのままゆっくりと、その場に深成を押し倒した。
 深成が身体を捻る前に、真砂は器用に彼女の帯を解く。

「ま、真砂……」

 帯が緩んだために、着物の合わせも少し開いた深成が、ちょっと慌てた様子で真砂を見上げた。

 そこで初めて、深成はしっかりと、真砂を間近で見た。
 三年ぶりに見る、乱破の頭領。
 初めて会ったときから、すでに真砂は大人だったし、三年経ったからといって、特に変わったところはない。

 だが真砂を見る深成の気持ちが、三年前とは違うのだ。
 真っ直ぐに上から見下ろす真砂の視線から逃れることも出来ないぐらい、どきどきと胸が高鳴る。
 動悸が激しくて、胸が痛いほどだ。
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