夜香花
「だから、誰に何をされたって、どうでもよかった。こんな、どきどきしないし」

「……そんなに違うもんかね」

 何てことのないような風を装っているが、真砂は視線を逸らしたままだ。
 深成は少し頬を膨らまし、ささっとはだけた胸元の着物を搔き合わせた。

「真砂だってそうでしょ。誰とやったって一緒だって言ってたけど、それって心がここになかったんだよ」

 そ、と真砂の胸に手を当てる。

「今は違うでしょ?」

 じ、と真砂を見上げる。
 その縋るような瞳に、真砂は息をついた。
 自覚はしているが、あっさり認めるのも、何となく癪に障る。

「何でそんなことがわかる?」

 再び身体を倒し、そろ、と着物の合わせを握っている深成の手をのける。
 抵抗することなく離れた手に、再び合わせが開く。

 三年間、あまり外を出歩くこともなかったので、すっかり白くなった深成の肌に、真砂は顔を埋めた。
 ぴく、と深成の身体が、小さく痙攣した。
 触れた真砂の唇に、深成の鼓動が伝わる。

 しばらくそのまま、真砂に身を委ねていた深成が、ぽつりと答えを返した。

「優しいもん……。わらわが知る限り、真砂は誰に対しても、こんなに優しくしてなかった」

「……確かにな」

 少し笑いを含んだ声で、真砂が言う。
 そして、深成の着物を大きく広げると、腰に手を回して上体を起こした。
 するり、と肩から着物が落ち、深成は裸で、真砂の膝の上に乗る形になる。
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