夜香花
「ま、真砂。恥ずかしいっ……」

 少し慌てたように身をよじる深成の身体を押さえ付けるように、真砂は彼女の身体を強く抱き締めた。

「我慢しな。片手じゃ身体を支えるのがしんどいんだ。それに」

 深成を抱いたまま、真砂はちらりと、脱ぎ捨てられた淡い桜色の着物に目を落とした。

「折角の婚礼衣装が汚れたら、勿体ないだろ」

 え、と深成が真砂を見、次いで、首を回して着物を見る。

「もちろん正式なものではないが、そう見えなくもない。お前の気持ちをよく考えて作られているな。婚礼衣装にもなるわりに、着回しも利くし、とにかく動きやすいように、柔らかい布で作られている」

 真砂の説明に、深成は利世の行動を思い出した。
 やたらと単に使うような、柔らかい布地ばかり選んでいたのは、こういうことを見越してのことか。

 宴の日時を真砂に伝わるようにし、それに合わせて、この着物をしつらえた。
 利世にとっては、昨夜が娘の婚礼の夜だったのだ。

「変わった女子だな、お前の母親は。……感謝はするがな」

「母上……。やっぱり母上は凄い。何でもお見通しなんだから」

「そんな妻を持つ真田信繁も、大した武将だ。睨んだ通り、配下もしっかりしている。あそこになら、仕えてもいいかもな」

 ふふ、と笑いながら、真砂は目の前の深成の胸に顔を寄せる。
 先程よりも激しく、深成が身体を震わせた。

 仰け反るように空を仰いだ深成の目に、消えゆく星が映る。
 白んでくる空の下で、深成は真砂に溶けていった。
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