夜香花
「お爺さま〜」
木の上から手を振る幼子に気付き、歩いてきた老人は足を止め、軽く手を振った。
深成が腰を上げ、円座を用意する。
「元気じゃの。もうあんなところまで登れるようになったか」
よっこらしょ、と円座に腰を下ろし、柔らかく笑う。
そして、深成が抱いている赤子を、そっと撫でた。
「こちらも健やかなようじゃの。何よりじゃ」
「長老も、お元気そうで何よりです」
「ほほ。お前様と頭領の子を見てしまうと、成長が楽しみでの」
かかか、と笑うのは、中の長老である。
今は母屋に、他の長老、その他かつて戦で親を失った子供らと共に暮らしている。
「そうそう、お千代が懐妊したようじゃ。そろそろ頭領らも帰って来る頃。清五郎も喜ぶじゃろうて」
千代は深成が真砂と里に帰って来てからは、敵意を向けなくなった。
真砂自身が、危険を冒してまで深成を求めたのだ。
色恋に長けた千代だからこそ、より真砂の気持ちがわかってしまったのだろう。
『いくら抱かれたって、そこに真砂様の心がないのは、わかってたさ』
ぽつんとそう言っただけで、千代はそれからは、全く普通に、深成にも接するようになった。
やはり千代は大人だ、と思ったものだ。
そして深成が真砂との第一子を授かった頃、千代は清五郎と祝言を挙げたのだ。
木の上から手を振る幼子に気付き、歩いてきた老人は足を止め、軽く手を振った。
深成が腰を上げ、円座を用意する。
「元気じゃの。もうあんなところまで登れるようになったか」
よっこらしょ、と円座に腰を下ろし、柔らかく笑う。
そして、深成が抱いている赤子を、そっと撫でた。
「こちらも健やかなようじゃの。何よりじゃ」
「長老も、お元気そうで何よりです」
「ほほ。お前様と頭領の子を見てしまうと、成長が楽しみでの」
かかか、と笑うのは、中の長老である。
今は母屋に、他の長老、その他かつて戦で親を失った子供らと共に暮らしている。
「そうそう、お千代が懐妊したようじゃ。そろそろ頭領らも帰って来る頃。清五郎も喜ぶじゃろうて」
千代は深成が真砂と里に帰って来てからは、敵意を向けなくなった。
真砂自身が、危険を冒してまで深成を求めたのだ。
色恋に長けた千代だからこそ、より真砂の気持ちがわかってしまったのだろう。
『いくら抱かれたって、そこに真砂様の心がないのは、わかってたさ』
ぽつんとそう言っただけで、千代はそれからは、全く普通に、深成にも接するようになった。
やはり千代は大人だ、と思ったものだ。
そして深成が真砂との第一子を授かった頃、千代は清五郎と祝言を挙げたのだ。