夜香花
 里の中で一番高い木の上で、真砂は城下を睨んだ。
 前の騒ぎは、小競り合い程度の戦を引き起こした。
 本格的な戦は、まだ先だろうが、城下にはあまり町人などの姿はない。

 真砂は木から下り、どうしたもんか、と辺りを流した。
 そこへ、軽い足音と共に、木の葉が落ちてくる。

「頭領っ」

 ざざ、と草木を掻き分け、捨吉と羽月が、真砂の足元に片膝を付いた。

「頭領、何か動くのでしたら、どうか俺たちを使ってください」

 捨吉は以前の依頼で、初めて真砂と共に仕事をした。
 真砂はいつも単独行動なので、『共に』仕事をしたつもりはないが、捨吉は、そうではないらしい。

 純粋に力のみで頭(かしら)を決めてきたこの党であるため、頭領というのは、絶対的な存在だ。
 捨吉のように若い者は、真砂という絶対的な頭領とお近づきになれたようで、嬉しくて仕方ないようだ。
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