夜香花
☆おまけ☆
 人里離れた山の中に、ひっそりと建つ大きな屋敷。
 その奥の部屋の、さらに奥。
 垂らされた御簾の中で、深成は寝そべったままぼんやりと、透けて見える月明かりを眺めていた。

 深成が真田の屋敷を出てから、初めての満月。
 一月が経ったのだな、と考えていると、すぐ横に寝ていた真砂が、僅かに腕に力を入れた。
 真砂に抱かれていた深成は、少し身体を動かして、ぴたりと真砂に寄り添う。

「……どうした?」

「ううん、月が綺麗だなって」

 そう言って、真砂の胸に頬を付ける。
 そして、ちらりと真砂を見た。

 この新しい里に来てすぐに、深成は真砂と祝言を挙げた。
 武家の祝言のような立派なものではないが、きちんと一定の手順があるらしい。
 皆の前で祝言を挙げ、夫婦(めおと)となったことを宣言するのだ。

 皆一様に嬉しそうに、二人を祝福してくれた。
 人としての情の欠落した真砂が、真に想う相手を見つけたことが、皆よほど嬉しかったようだ。

「ねぇ真砂」

 ふと、深成は思い出したように、視線を上げた。
 深成を抱いたまま、真砂が視線を落とす。
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