夜香花
「……はぁっ……はぁっ」

 ほとんど沈みながらも、深成は必死で川辺を目指した。
 このままでは死んでしまう。

---死んでたまるかっ……!---

 強く思い、深成は力の限り水を掻いた。
 死に物狂いで、目に付いた岩を掴み、身体を引き寄せる。

 力を振り絞って身体を引き上げ、ようやく水から上がった深成は、浮力がなくなったため、身体を支えられなくなり、その場に倒れ込んだ。
 ぜぃぜぃと空気を貪る。

 しばらくそのまま倒れていたが、寒気を覚え、深成はのろのろと顔を持ち上げた。
 少し先で、ぱちぱちと火が燃えている。
 誘われるように、深成はずるずると火に近づいた。

 暖かい火の傍で身体の力を抜いたとき、火の向こうに誰かがいるのに気づいた。
 真砂だ、と思ったが、構っている余裕はない。

 そもそも自分を川に投げ入れたのも真砂だということは、予想が付いている。
 自分は真砂の家に捕らわれていたのだ。
 頭領の真砂の家から、自分を連れ出すような者はいないだろう。

 しかも、助け出すわけでもなく、むしろ殺そうとしたのだ。
 あの男なら、やりそうなことである。
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