夜香花
---乱破のくせに、変な格好……---

 普通の着流し姿の真砂に、深成は知らず不躾な視線を投げる。
 最後に、帯に刀をぶっ込んだ姿は、単なる侍にしか見えない。
 もっとも髷などは結っていないが。

 真砂は一旦腰を落とすと、茶碗のような器に口を付けた。
 そして、空になったそれを、深成の顔の前に投げて寄越す。
 怪訝な表情で目の前に転がる器を見る深成を一瞥すると、真砂は背を向けた。
 そのまま歩き出す。

 真砂が去った後で、深成はのろのろと起き上がった。
 見ると、焚き火には小さな鍋が置かれ、粥のようなものが湯気を立てている。
 その横には、魚が串に刺さって火にくべられていた。

 深成は夢中で器に鍋の中身を空け、口に運んだ。
 薄い塩味だけだが、この上なく美味く感じ、思わず涙が浮かぶ。

 ひとしきり粥を掻き込んだ深成は、やっと一息ついて周りを見渡した。
 河原には、もう真砂の姿はない。

 深成は焚き火に当たりながら、魚にかぶりついた。
 冷えていた身体が温まり、腹も満たされてくる。
 同時に、頭も動き出した。
 といっても、幼い頭では大した考えは浮かばない。

---あいつ、何のつもりか知らないけど、わらわを殺さなかったこと、そのうち後悔させてやるんだからねーっ---

 もしゃもしゃと、頬が汚れるのも気にせず、深成は焼かれていた魚を平らげた。
< 63 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop