夜香花
「ま、真砂様。駄目ですわ……」

 千代が足を下ろした瞬間、真砂は千代の両手首を掴んでいた手を引いた。
 引っ張られ、千代が上体を起こすように、真砂に引き寄せられる。

「!! ……あっ!」

 次の瞬間、千代の腕に、小さな苦無が突き刺さった。
 引かれた千代の腕は、真砂の首筋辺りにある。
 そこを狙って放たれたのだ。

 真砂は千代を突き飛ばすと、後ろに飛んだ。
 千代の胸ぎりぎりを、さらに苦無が飛んでいく。

「ま、真砂様……」

 苦無の刺さった腕を押さえて、千代が真砂のほうに身体を寄せる。
 が、真砂は入り口を睨んだまま、低く言った。

「来るな。邪魔だ」

 千代の動きが、ぴたりと止まる。
 戦闘時は、真砂の傍に行くのは危険だ。

 真砂は必要とあらば、人を盾にすることも厭わない。
 それが女子であってもだ。
 今も、苦無が飛んでくるのを察して、千代の腕を盾にしたのだ。

 千代は顔を歪めて、視線を落とした。
 その目が、己の腕に突き刺さっている苦無に落ちる。

---え……?---

 千代が目を見開いた。
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