夜香花
 腕に刺さっているのは、真砂の苦無ではないか。
 苦無は忍びの党ごとで同じだが、持ち手の部分に持ち主の特徴が出る。
 サラシを巻く者、細い荒縄を巻く者と、様々だからだ。
 巻き方だけでも、持ち主を特定できる。

「真砂様……?」

 どういうことかと顔を上げた千代は、腰を落として入り口を睨む真砂の表情に、目を奪われた。
 先程のように、楽しげな表情。
 まるで刺客を歓迎しているかのようだ。

---さっきの楽しそうなお顔は、私との情事ではなく、この刺客を察して面白がっていたからだというの---

 悔しさに、千代は、ぎり、と唇を噛んだ。

---誰なの、この刺客は---

 情事を邪魔されたことと、己との行為よりも真砂が楽しそうにすることで、千代は憎悪に燃える瞳を入り口に向けた。
 そこに、小さな影を見る。

---! まさか……---

 あり得ないほど小さく頼りなげな影と、己の腕に刺さった真砂の苦無を結びつけ、千代は息を呑んだ。
 つい先日までこの家の隅に転がっていたあの娘なら、真砂の苦無を持っていても不思議ではない。
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